ホスト:今回のテーマは突発性難聴です。ある日突然、片方の耳が聞こえなくなる。
ゲスト:はい。
ホスト:それで病院に駆け込んで、まあ、標準的な治療であるステロイドの点滴を受けた。でも期待したほど改善しない。
ゲスト:うーん。
ホスト:そんなちょっと八方塞がりのような状況で、一体どうすればいいのか。この切実な問いを皆さんと一緒に掘り下げていきたいなと思っています。
ゲスト:ええ。もう治療の選択肢がなくなったように感じて、本当に途方に暮れている方っていうのは少なくないでしょうね。
ホスト:今回私たちの手元にあるのが、長野県にある突発性難聴を専門に扱う森上鍼灸整骨院のウェブサイトの記事。
ゲスト:はい。
ホスト:それと関連する補足資料です。で、この資料が投げかけるのが結構・・・挑発的な問いなんですよ。
ゲスト:ほう。
ホスト:突発性難聴は単なる炎症じゃなくて、実は耳の中で起きる梗塞かもしれないと。
ゲスト:梗塞ですか?
ホスト:ええ。つまり、あの脳梗塞とか心筋梗塞の、まあ親戚みたいなものかもしれないとしたらどうでしょう。
ゲスト:なるほど。
ホスト:この視点に立つと、なぜステロイドだけでは不十分なケースがあるのか、その理由が全く違って見えてくるんです。
ゲスト:まさに視点の転換を迫る内容ということですね。ではまず、この記事の信頼性を担保するために著者情報からお伝えします。
ホスト:はい、お願いします。
ゲスト:執筆されたのは、鍼灸師であり柔道整復師の吉池加奈さん。
ホスト:うんうん。
ゲスト:各国の民間医療を学んで、特に顔と耳の解剖学を専門とされている方です。聴力検査を得意としていて、突発性難聴の鍼治療を専門にされている、まあ、この分野のスペシャリストですね。
ホスト:臨床経験に裏打ちされた、まさに現場からの声ということですね。ではまず、多くの人が経験するであろう標準的な治療の流れから確認していきましょうか。
ゲスト:ええ。
ホスト:突発性難聴と診断されると、まず処方されるのがステロイド。これって、そもそもどういう理屈で使われるんでしたっけ?
ゲスト:はい、ステロイドっていうのは、体内に起きている炎症を、まあ非常に強力に抑え込む作用があるんですね。
ホスト:炎症を抑える。
ゲスト:ええ。突発性難聴の主な原因は、内耳の蝸牛という場所で、何か急な炎症が起きているからだ。というのが現代医学の主流の考え方なんです。
ホスト:なるほど。
ゲスト:ですから、まずはその火事を消すために、強力な消化器であるステロイドを短期間多めに投与するというわけです。
ホスト:なるほど。原因が炎症だから、抗炎症薬を使うと。非常にシンプルでわかりやすいですね。
ゲスト:ええ。
ホスト:でも、今回の資料がテーマにしているのは、その消化器が効かなかった場合です。その場合、病院では次にどんな手が打たれるんでしょうか?
ゲスト:一般的にはより踏み込んだ治療として、高気圧酸素療法と鼓室内注射が挙げられていますね。
ホスト:高気圧酸素療法。
ゲスト:ええ、これは専用のカプセルに入って体全体に高い圧力をかけて血液中に溶け込む酸素の量を、まあ強制的に増やすんです。
ホスト:ほう。
ゲスト:それで内耳の血流を改善させようというものですね。
ホスト:なんだかちょっとSF映画みたいですね。体に圧力をかけて血中の酸素を増やす。もう一つの鼓室内注射というのは?
ゲスト:こちらはもっと直接的ですね。鼓膜にほんの少しだけ穴を開けて、
ホスト:はい。
ゲスト:耳の中にある鼓室と呼ばれる空間にもうダイレクトにステロイドを注入するというやり方です。
ホスト:あーなるほど。
ゲスト:点滴だと全身を巡ってしまいますけど、これなら患部に直接薬を届けられるだろうという、まあそういう発想ですね。
ホスト:どちらも強力そうですけどその分、体への負担とかリスクもありそうですよね。資料でも、特に高気圧酸素療法については注意点が書かれています。
ゲスト:その通りです。体に強い圧力がかかるので、治療後に一時的に耳鳴りが悪くなったように感じたりとか、
ホスト:うーん。
ゲスト:あとは頭が重くなったりすることがあるようです。
ホスト:ええ。
ゲスト:これは治療による刺激への反応であって、必ずしも症状が悪化しているわけではないと説明はされるんですが、
ホスト:はい。
ゲスト:でも、受けている本人からすれば、良くなるためにやってるのに症状がひどくなったって感じるのはものすごい不安ですよね。
ホスト:それは・・・怖い。ただでさえ聞こえなくて不安なのに追い打ちをかけられるような。
ゲスト:ええ。さらにもう一つ見過ごせない指摘があるんです。
ホスト:と言いますと?
ゲスト:この治療によって滲出性中耳炎が起こりやすくなるという点です。
ホスト:滲出性中耳炎。
ゲスト:はい。耳と鼻をつなぐ「耳管」という管に圧力がかかることで、なんと、もともと健康だった方の耳にまで水が溜まってしまうことがあるんです。
ホスト:え?
ゲスト:いわゆる浮腫という状態ですね。
ホスト:えっと、悪い方の耳を治そうとして、良い方の耳まで調子が悪くなる可能性があるんですか?
ゲスト:そうなんです。しかも厄介なことに、この水が溜まった状態は、病院の通常の検査では正常範囲内と判断されてしまって、
ホスト:ああ。
ゲスト:見逃されてしまうこともあると資料は警鐘を鳴らしています。
ホスト:うーん、それは深刻ですね。標準治療の次の一歩も、まあ万能ではないと。
ゲスト:ええ。
ホスト:そうなると、いよいよ根本的な問いに戻りますけど、もしステロイドが効かないなら、原因はそもそも炎症じゃないということなんですかね。
ゲスト:はい。
ホスト:資料はその点全く違う角度から切り込んでいます。
ゲスト:はい。ここからが、まあ今回の核心ですね。資料が提示する仮説は、薬が効かないのは、薬が悪いんじゃなくて、薬が患部に届かない体質に問題があるんじゃないか、というものです。
ホスト:ああ、なるほど。
ゲスト:具体的には、内耳の血流不全。資料ではこれを梗塞体質という言葉で表現しています。
ホスト:薬が効かないんじゃなくて、そもそも現場に届いていなかったという可能性。なるほど。でも、梗塞体質っていうのはかなり強い言葉ですよね。どうしても脳梗塞とか心筋梗塞を連想してしまいます。
ゲスト:ええ、そして、その連想はあながち間違いではないと資料は示唆しています。
ホスト:ほう。
ゲスト:一部の医師の間では、突発性難聴というのは、脳梗塞なんかと同じように、耳の奥深くにある聴覚をつかさどる蝸牛、蝸牛へと続く、本当に髪の毛のように細い血管に、
ホスト:はい。
ゲスト:微小な血栓が詰まることで。発症するんじゃないかという説があるんです。
ホスト:なるほど。
ゲスト:つまり、耳の中で起きるごく小規模な梗塞というわけですね。
ホスト:耳の血管が詰まる。そう考えると、いくら強力な抗炎症薬を点滴しても、その先の現場に血液が流れていなければ薬が届くはずもない。そういう理屈ですか。
ゲスト:まさに。この鍼灸院のまあ40年近い臨床経験によれば、特に中高年で発症してステロイドへの反応が悪い患者さんの多くに、この血流の。問題が見られるということです。
ホスト:うーん、炎症という結果だけを叩くんじゃなくて、なぜ薬が届かないのかっていう原因に目を向けなければならない。というのがこの記事の主張の根幹ですね。
ゲスト:原因が血流、つまり体質にあるのなら治療法も全く変わってきますね。
ホスト:そこで出てくるのが鍼治療というわけですか。
ゲスト:その通りです。
ホスト:ただ正直に言うと血流の問題だとしても鍼でどうにかなるものなのかなっていう疑問はちょっとあります。耳という局所的な問題に対して、全身の血流を改善するっていうのは、少しアプローチが遠回りに聞こえるんですが。
ゲスト:いい質問ですね。まさにそこがこの鍼灸院のアプローチのユニークな点なんです。
ホスト:はい。
ゲスト:彼らはその、耳に直接鍼を打つといった対症療法的なことはしないんです。
ホスト:あ、そうなんですか。
ゲスト:ええ。目的はあくまで全身の血流を改善して自律神経のバランスを整えることで、根本原因である梗塞体質そのものを変えていくことにあります。
ホスト:耳の問題なのに、体全体を見て治していくと。
ゲスト:はい。
ホスト:でも、体のどこに問題があるかなんて、どうやって特定するんですか?まさか勘で鍼を打つわけじゃないですよね。
ゲスト:もちろんです。だからこそ、治療の前に非常に精密で科学的な検査を行うのが最大の特徴なんです。
ホスト:ほお。
ゲスト:まず使うのが循環器用エコーですね。
ホスト:エコー?
ゲスト:はい。これは心臓とか血管の検査で使う超音波診断装置です。これを首周りに当てて、内耳へと向かう血管の血流がどこで滞っているのか、あるいは細くなっているのかを直接目で見て確認するんです。
ホスト:赤ちゃんがお腹にいる時に見るあのエコーですか?
ゲスト:ええ、血流のボトルネックを可視化するわけです。
ホスト:なるほど。
ゲスト:次に使うのが医療用サーモグラフィー。体温を色で表示するあれです。
ホスト:はいはいはい。
ゲスト:これで全身の体温分布を撮影します。梗塞体質の方っていうのは、ふくらはぎのような体の末端の温度が低くなっていることが多いんですね。
ホスト:うーん。
ゲスト:これは、血液を心臓に押し戻すポンプ機能が弱っているサインなんです。
ホスト:冷えは万病の元なんて言いますけど、それを科学的に捉えるわけですね。
ゲスト:ええ、サーモグラフィーで体温が低い場所、つまり血流が滞っている場所を特定して、そこにアプローチすると。そして、聴力計算も非常に詳しく行います。単に音が聞こえるか、聴力レベルだけじゃなくて、言葉を正しく聞き分ける能力、語音明瞭度まで測定します。
ホスト:ああ、それは重要そうですね。音が聞こえても何を言っているかわからないっていう状態は辛いですから。
ゲスト:それだけじゃないんです。この詳しい検査は、症状のある耳をかばうことで、健康な方の耳にどれだけの負担がかかっているかを把握するためでもあるんです。
ホスト:負担、ですか。
ゲスト:ええ。片方の耳が聞こえにくいと、無意識にもう片方の耳で必死に音を拾おうとしますよね。
ホスト:ああ、しますね。確かに。
ゲスト:その無理が続くと、なんと良かった方の耳の聴力まで低下してくるリスクがある。と資料は指摘しています。
ホスト:うわ、それは考えたこともなかった。両方の耳を守るためにも、現状を正確に知ることが大事なんですね。
ゲスト:はい。
ホスト:原因をこれでもかというくらい徹底的に突き止めてから治療に入る。非常に説得力のあるアプローチだと感じます。
ゲスト:ええ、やみくもな治療ではなくて、データに基づいたオーダーメイドの治療を目指しているということですね。
ホスト:なるほど。さて、ここまで標準治療の限界から、血流という新しい視点、そしてそれに基づいた鍼灸のアプローチまで見てきました。一度、頭を整理したいんですが。今回の分析から、突発性難聴に悩む方が持ち帰るべき重要なポイントはどんなことになるでしょうか?
ゲスト:そうですね。3つの大きな視点の転換としてまとめられると思います。
ホスト:はい。
ゲスト:まず一つ目は、もしステロイドが効かないなら、原因は耳だけでなく全身の血流にあるのかもしれないという視点です。
ホスト:うんうん。
ゲスト:耳の中の炎症という局所的な問題から、体全体のシステムの問題へと視野を広げてみること。薬が効かないのは、自分の体が悪いからだと落ち込む必要はないのかもしれないと。
ホスト:なるほど、問題の捉え方を変えるということですね。
ゲスト:ええ。2つ目は、治療の目的を症状を抑えることから体質を改善することへシフトさせるという視点。
ホスト:ほう。
ゲスト:鍼治療のようなアプローチは、炎症という結果を直接叩くんじゃなくて、血流とか自律神経といったその根本にある原因に働きかけます。
ホスト:ええ、ええ。
ゲスト:対症療法から原因療法への転換。体の土台から立て直していくというイメージですね。
ホスト:付け焼き刃じゃなく、根本から解決を目指すということですね。
ゲスト:そして3つ目。これが個人的には最も重要だと感じます。
ホスト:はい。
ゲスト:わからないという不安から可視化して対策するという視点です。
ホスト:可視化して対策する。
ゲスト:ええ。エコーやサーモグラフィーといった検査は、目に見えない体の中の問題を客観的なデータとして見せてくれます。何が起きているか分からないという状態が一番辛いじゃないですか。
ホスト:本当にそうですね。
ゲスト:でも、自分の血流がどこで滞っているのかを具体的に知ることができれば、それは回復への具体的な第一歩になるんです。
ホスト:確かに、敵の正体がわかったというだけでも、気持ちは全然違いますよね。前に進む勇気が湧いてくる気がします。
ゲスト:ええ。ご自身の体の状態を正確に知ることこそが、回復への最大の武器になるという非常に力強いメッセージだと思います。
ホスト:いや~今回は、突発性難聴という一つの症状を入り口に、標準治療から血流という全身的な問題に焦点を当てた鍼灸まで、本当に深いところまで掘り下げましたね。
ゲスト:ええ。今回の資料が示唆しているのは、ある特定の症状が、実はその部位だけの問題ではなく、体全体のシステム、特に血流という生命の根幹に関わる問題の現れかもしれないということですね。
ホスト:う~ん。
ゲスト:体はすべてつながっているという当たり前のようでいて、私たちが忘れがちな真実を突きつけてくるなと。
ホスト:本当ですね。
ゲスト:そこで最後に、これを聞いているあなたに一つ考えてみていただきたい問いがあるんです。
ホスト:はい。
ゲスト:今回の突発性難聴に限った話ではありません。原因がはっきりしない、なかなか治らない体の不調に対して、私たちはつい、症状が出ている場所だけに目を向けてしまいがちではないでしょうか。
ホスト:ああ~。
ゲスト:頭が痛ければ頭痛薬、胃が痛ければ胃薬、というように。
ホスト:まさにそうですね。もぐらたたきのように出た症状を叩くことばかり考えてしまいます。
ゲスト:もしかしたら、その不調の根本には体全体のシステム、例えば循環とか自律神経の乱れといったもっと大きな問題が隠れているのかもしれません。
ホスト:うん。
ゲスト:今あなたが感じているその症状を、単なる厄介者としてではなく、体全体があなたに送っている重要なサインとして捉え直してみる。そんな視点を持つことが、解決の思わぬ糸口になるのではないでしょうか。
※出典1 月刊ENTONI 「突発性難聴 update」
※出典2 森上鍼灸整骨院 「治療に対する考え」