ホスト:今回のテーマは、発症から1ヶ月以上が経過した突発性難聴です。病院での標準的な治療が、まあ一区切りついて、これ以上の回復は難しいかもしれないって言われる、まさにその段階。そこから何ができるのか、希望はあるのか、これを探っていきます。
ゲスト:多くのリスナーの方が、まさにその壁に直面しているのかもしれないですね。医学の常識だと、どうしても選択肢が狭まってくるとされる時期なんですけど。今日見ていく資料は、そこにこう新たな光を当てるものになりそうです。
ホスト:今回ご提供いただいた資料は、長野県にある森上鍼灸整骨院の、これ非常に詳細な解説記事でして、そしてその記事が参考文献として挙げている医学書ですね。EBMから見た突発性難聴の臨床、それと、月刊ENTONI 耳・鼻・喉の"つまり"対応、これらに関するノートです。
ゲスト:鍼灸というアプローチと、大学の最先端研究、そして医学的なエビデンス。これらをこうつなぎ合わせていくと、非常に興味深い全体像が浮かび上がってくるんですよ。
ホスト:今回のミッションは、まず、なぜ時間切れみたいな状況が生まれるのか、その医学的な背景を理解すること。そして、その先にある回復の可能性を、鍼治療と再生医療という2つの視点から深く掘り下げていくということです。では、早速本題に入りましょうか。まず、そもそも論からなんですけど、なぜ突発性難聴は時間が経つと治りにくいって言われちゃうんでしょうか。どうしても発症直後が勝負みたいな、そういうイメージが強いですよね。
ゲスト:はい。その最大の理由はですね、突発性難聴には自然回復という現象があるからなんです。資料によると、何もしなくてもある程度聴力が戻ることがあって、その多くが発症してからだいたい2週間以内に起こると。ですから、病院での初期治療っていうのは、この最も回復しやすいゴールデンタイムに薬の効果を最大限に発揮させるという戦略なんですね。
ホスト:ああ、自然に治ることもあるんですね。でも、それならなぜそんなに急いで治療する必要があるんですか?
ゲスト:そこがええと、難しいところでして。自然回復率は報告によって30%から、まあ65%と非常に幅が広いんです。逆に言えば、1/3以上の人は自然には良くならないわけです。全く回復しなかったっていう厳しいデータもある。この不確実性があるからこそ、待つという選択はせずに、できるだけ早くステロイド治療を開始するのが、まあ世界の標準になっているんです。
ホスト:なるほど、その頼みの綱であるステロイドですけど、資料にはその役割についてかなり重要な指摘がされてますよね。炎症を抑える作用はあるけど、内耳の神経そのものを再生する作用はないと。
ゲスト:まさにそこが今回の議論の出発点です。内耳の音を感じ取る有毛細胞とか神経って、非常にデリケートな組織なんです。何らかの原因で炎症が起きると、それがダメージになって機能が失われてしまう。ステロイドはその火事を消すための、いわば消火器なんですよ。火事を消せば、まだ燃え残ってる部分が機能を取り戻す可能性はある。でも、すでに燃えてしまった部分を元通りに再建する力はないんです。
ホスト:つまり、病院でこれ以上は難しいって言われるのは、「消火活動は終わりました。あとは焼け残った部分で頑張るしかありません」っていう宣言に近いと。回復の可能性はゼロだと断定しているわけじゃないんですね。
ゲスト:その通りです。そして、ここからが今日の話の本題なんです。もし、その燃えてしまった部分を再建する方法があるとしたら。その可能性を示したのが、資料にも出てくる京都大学の新しい臨床試験なんです。
ホスト:お、ここで最先端の研究の話が出てくるんですね。これはどういう内容なんですか?
ゲスト:これがですね、まさにステロイド治療で十分な効果が得られなかった患者さんたちを対象にした治験でして、インスリン様ヒト再生ホルモン1型、通称IGF-1という物質を使った治療法です。
ホスト:IGF-1、初めて聞く名前です。これは一体どういう物質なんでしょう?
ゲスト:体の成長とか細胞の修復に深く関わるホルモンで、特に神経の再生を促す働きがあると考えられています。この治験では、そのIGF-1を鼓室、つまり鼓膜のすぐ奥にある空間に直接投与したんですよ。
ホスト:かなり思い切った治療法に聞こえますけど、その結果はどうだったんでしょうか?
ゲスト:それがですね、驚くべき結果でして、参加した患者さんの7割で聴力の改善が見られたと報告されているんです。ステロイドという消火器では助からなかった神経が、IGF-1という修復剤によって再生し始めた可能性を示唆していると。さらに重要なのは、従来のステロイドを鼓室内に注入する治療法と比べて安全な方法だったとも記載されている点なんです。
ホスト:7割ですか。それはすごい数字ですね。一度は「ここまで」って言われた人たちにとって、これはとてつもない希望になりますよね。ただ、これはまだ治験の段階なんですよね。
ゲスト:はい。一般の治療として受けられるようになるにはまだ時間がかかります。ですが、もしこのIGF-1をですね、薬として外から入れるんじゃなくて、自分自身の体の中で作り出すのを手助けする方法があるとしたらどうでしょう。
ホスト:そんなことが可能なんですか?
ゲスト:まさにその点に、今回の中心資料である森上鍼灸整骨院の非常にユニークな仮説とアプローチがあるんです。
ホスト:京大の最先端研究と鍼治療、一見すると全くつながらないように思えますけど。
ゲスト:私も最初はそう思いました。でも、資料を読み解くと、非常に説得力のあるつながりが見えてくるんですね。仮説の核心はこうです。まず、先ほどのIGF-1は、もともと私たちの体の中にある成長ホルモンが肝臓を刺激することで作られる物質なんです。そして、鍼治療というのは、古くから自律神経とかホルモンバランスを整える作用があると言われていますが、その一つに体内の成長ホルモンの分泌を促すという働きが知られているんです。
ホスト:ということは、鍼を打つことで成長ホルモンが出て、それが肝臓でIGF-1に変わって、そのIGF-1が傷ついた内耳の神経を修復する。つまり、京都大学が外から投与した物質を、鍼治療は体の内側から作り出そうとしているという仮説が成り立つわけですか?
ゲスト:その通りです。最先端の再生医療がやろうとしていることを、鍼治療は全く別のアプローチで、体が本来持っている自己治癒力を引き出すことで実現しようとしているんじゃないかと。これ本当に面白い視点ですよね。
ホスト:いや、にわかには信じがたい話ですけど、もし本当なら革命的ですよ。もちろんこれはまだ仮説の段階だとは思うんですが、実際治療結果ってどうなんでしょうか?
ゲスト:資料によると、ステロイド治療で効果がなかった患者さん、それも聴力検査の機械では測定不能な「スケールアウト」という最も重度の患者さんのうち、実に3割から4割で、再び音が測定できるレベルまで聴力が回復したと報告されています。
ホスト:スケールアウトからの回復は、一般的には極めて難しいと聞きます。その状態から3割も回復するっていうのは、これ驚異的な数字じゃないですか。
ゲスト:まさに。そして全体で見ても8割から9割の患者さんで、聴力回復だけじゃなく、耳鳴りとか耳の詰まり感、めまいといった辛い症状に何らかの改善が見られたそうです。特に強調されているのは、この中には飲み薬だけじゃなく、より強力な鼓室内へのステロイド注入療法をしても効果がなかった患者さんが含まれているという点です。
ホスト:なるほど、考えうる標準治療をやり尽くしたという方々にも改善が見られているわけですね。京都大学の治験の7割という数字ともどこか通じるものがあって、これは偶然とは考えにくい気がしますね。
ゲスト:もちろん、鍼治療が万能というわけではありません。資料にも、「鍼灸師によって治療レベルは大きく異なるので、信頼のおける鍼灸院を選ぶことが何よりも大切」と、まあ釘を刺しています。ただ、京大の研究が「神経再生は可能だ」っていう扉を開いて、森上鍼灸整骨院の実績が「そのためのアプローチはすでにあるのかもしれない」という希望を示している。この2つがつながった意味は非常に大きいと思います。
ホスト:森上鍼灸整骨院の記事を読んでいると、単に耳に鍼を打つだけという話ではないですよね。もっと全体的というか、包括的なアプローチを感じます。
ゲスト:おっしゃる通りです。彼らは突発性難聴を耳だけの病気ではないと明確に位置づけています。ストレス、血流、自律神経のバランスといった全身の状態が耳に影響しているという考え方ですね。それを裏付けるために、診断プロセスを非常に重視しています。例えば、医療用のサーモグラフィーを使って、全身の体表温度を撮影するんです。これで血流が滞っている場所とか、自律神経の乱れによる冷えなどを可視化するんですね。なぜ耳の治療なのにふくらはぎの血流を見る必要があるのか、一見関係ないように思えますよね。資料によれば、ふくらはぎは第二の心臓とも呼ばれる重要なポンプなんです。ここの血流が悪いと、全身に血液を巡らせる力が弱まって、結果として頭部、そして内耳の蝸牛のような末端の毛細血管まで十分な血液、つまり栄養や酸素が届きにくくなる。鍼でそうした全身の滞りを解消することが、耳の回復環境を整える上で不可欠だというわけです。
ホスト:なるほど、耳という「木」を治すために、全身という「土壌」から改良していくようなイメージですね。そしてもう一つ、鍼灸院でありながら耳鼻科レベルの聴力検査を独自に行っているという点も非常にユニークです。これはなぜなんでしょう?
ゲスト:これがですね、この治療院の信頼性を支える非常に重要なポイントだと思います。資料には、患者さんが「良くなった気がする」っていう感覚には、2つの大きな落とし穴があると書かれています。1つは、実は悪い方の耳は変わっていないのに、もともと良かった方の耳の聴力が少し悪化して、左右のバランスが取れたように感じてしまうケース。これは、良くなったと勘違いしている間に、健康な耳まで危険にさらしていることになり、非常に怖い。もう一つは、脳が聴力低下という状態に単に慣れてしまっただけのケースです。聞こえにくいという違和感が減っただけで、聴力自体は全く改善していない。こうした主観と客観のずれを防ぐために、定期的に精密な聴力データを取ることで、治療が本当に効果を上げているのか、それともプラセボなのかを厳密に判断しているわけです。
ホスト:治療効果を正しく、客観的に評価するためにそこまで徹底しているんですね。
ゲスト:さらにもう一つの柱として音響療法も並行して行っています。これはただ音楽を聴くのとは全く違ってですね、患者さん一人一人の聴力検査データに基づいて、聞こえにくい周波数の音を少しだけ持ち上げた特殊な音楽をオーダーメイドで作成するんです。それを骨伝導ヘッドホンで聴くというリハビリですね。
ホスト:ああ、骨伝導ヘッドホンを使うんですね。
ゲスト:空気の振動で鼓膜を鳴らすんじゃなくて、骨の振動によって直接内耳の蝸牛に音を届けることができます。これは、衰えた聴覚神経をピンポイントで刺激して、脳の音を処理する能力を再教育するリハビリなんです。聴力そのものだけじゃなく、耳鳴りとか音が割れて聞こえるといった、聴力が戻った後も残りやすい不快な症状の改善も目指しています。
ホスト:なるほど、鍼で体の内側から再生能力を高め、血流という土壌を整え、音響療法で脳の処理機能をリハビリする。耳、体、脳という3つの側面から総合的にアプローチしているんですね。これはもう単なる鍼灸という枠を超えてますね。
ゲスト:まさにそう言えるでしょう。
ホスト:それでは今回の内容をまとめていきましょう。発症から時間が経って、もう手遅れかもしれないと感じているリスナーにとって、今日の話はどんな意味を持つでしょうか。
ゲスト:最大のポイントは、病院での標準治療が終わったからといって、すべての可能性が閉ざされたわけではないということです。京都大学の研究が示したように、一度失われたと考えられていた神経の再生は、もはや夢物語ではなく、現実的な治療目標になりつつあります。
ホスト:あのIGF-1の話ですね。未来には希望があると。
ゲスト:はい。そして、その未来をただ待つだけでなく、森上鍼灸整骨院の事例が示すように、鍼治療という既存のアプローチが、体の内側から同様のメカニズムを働かせる可能性が。これは今を生きる私たちにとっての大きな希望です。外から薬を入れる西洋医学的なアプローチと、内なる治癒力を引き出す東洋医学的なアプローチがIGF-1という一点で交わった。これは非常に示唆に富んでいます。
ホスト:治療法そのものだけじゃなく、ストレスや血流といった体全体の状態に目を向けるという視点も重要ですね。
ゲスト:そして、その話はリスナーにとって重要な問いを投げかけていると思うんです。標準的な医療以外の選択肢を検討する際、何を基準にその提供者を選べばよいのか。今回の事例は、治療法の新しさとか魅力的な改善率だけじゃなくて、その背景にある診断プロセスの客観性や、なぜそれが効くのかっていう仮説を科学的に説明しようとする姿勢、そういった徹底性が信頼性を判断する上で一つの鍵になることを示唆しています。
ホスト:最後に、リスナーの皆さんに1つ考えていただきたいテーマがあります。資料の中に「脳が聴力低下に慣れてしまう」という話がありましたよね。これって私たちの生活の他の場面にも言えることかもしれないなと。私たちは慢性的な肩こりとか、なんとなく続く疲労感、少しずつ悪化していく人間関係とか、本来あるべきではない状態にいつの間にか慣れてしまうことで、そこから抜け出す機会や改善の可能性を、無意識のうちに手放してはいないでしょうか。
ゲスト:自分の当たり前が本当に当たり前なのかを疑ってみるということですね。非常に深い問いかけだと思います。
ホスト:少し立ち止まって、自分の心や体の声に耳を澄ませてみるのも良いかもしれません。なお、今回の中心となった記事の著者は、鍼灸師・柔道整復師の吉池加奈さんでした。本日はありがとうございました。
ゲスト:ありがとうございました。
※出典1 EBMからみた突発性難聴の臨床 金原出版
※出典2 みみ・はな・のどの”つまり”対応 全日本病院出版社
※出典3 森上鍼灸整骨院 「治療に対する考え」